わが国の糖尿病患者は増加の一途をたどっています。5年ごとに発表される厚生労働省の糖尿病実態調査によると、2012年には「糖尿病が強く疑われる人」と「糖尿病の可能性が否定できない人」を合わせると約2050万人と報告されています。
糖尿病とは高い血糖値の状態が続くことです。健康な人でも食事などで血糖値は変動します。朝食前の空腹時は70 ~109mg/dl、食事をすると60~90分後をピークに100~140mg/dlまで上昇します。空腹時が126mg/dl以上あるいは食後の血糖値が200mg/dlを超えると、糖尿病の可能性が高くなります(表1)。同時に測定したグリコヘモグロビン(HbA1c)が6・5%以上なら糖尿病と診断され、その原因を考える必要があります。
糖尿病には1型▽2型▽その他の原因による▽妊娠糖尿病―の4つのタイプ(型)があります。日本人の場合、90%以上は2型糖尿病であり、このタイプの糖尿病が増えてきています。
患者数が増加する要因としては、2型糖尿病の発症に関係する生活習慣の変化が考えられます。近年、食生活が欧米化し、食事中の脂肪摂取量は増えています。加えて、車社会の発達などで歩かなくなり、身体活動量は減っています。
その結果、男性では肥満の人の割合が増えてきており、糖尿病が発症しやすい状況になっています。食事などで摂取した糖質はすい臓のβ細胞から分泌されるインスリンによって肝臓、筋肉や脂肪へ取り込まれますが、肥満になるとインスリンによる糖質の取り込みが低下します。さらに肝臓で糖が多くつくられる状態となり、血糖値は下がりにくくなります(このような状態をインスリン抵抗性といいます)。さらに肥満は糖尿病のみならず、高血圧や脂質異常を併発し、脳梗塞や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患の原因となります(図1)
肥満があるかどうかの判定には肥満指数(BMI)が用いられます。肥満指数は体重(kg)を身長(m)の2乗で除したものです。肥満指数が25を超えると肥満と判定されます(表2)。肥満のある人は肥満指数22(理想体重)未満の人に比べ、2型糖尿病の発症率は7倍になるといわれています。
また、糖尿病の前段階である境界型から糖尿病への進展に肥満は関連するとされています。肥満には内臓型肥満と皮下型肥満があり(図2)、内臓型肥満が糖尿病の発症により密接に関与しています。インスリンの働きを悪くするような種々の生理活性物質(腫瘍壊死因子、遊離脂肪酸、レジスチンなど)が内臓脂肪から分泌していることと関連しています。
元来、インスリンの分泌は欧米人に比べ日本人を含めた東洋人は弱く、中年以降の体重増加によって糖尿病が発症しやすくなるため、肥満には特に注意が必要です。肥満を防ぐ生活習慣の見直しを日ごろ心がける必要があります。
山陽新聞 岡山医療メディカ掲載(2015/5/18)
糖尿病の慢性合併症は、毛細血管を中心に生じる細小血管障害と、比較的太い血管に起こる大血管障害に大別することができます。三大合併症として知られる細小血管障害には、神経障害、網膜症、腎症があり(図1)、糖尿病発症後10年前後の経過で出現すると考えられています(図2)。
一方、心筋梗塞や脳梗塞などの原因となる動脈硬化は大血管障害にあたり、境界型糖尿病と呼ばれる糖尿病予備軍の段階から発症・進展することがわかっています。
糖尿病神経障害は、高血糖により手足の神経に異常をきたし、足の先や裏に痛みやしびれなどの感覚異常があらわれる合併症です。進行すると、足潰瘍や足壊疽(えそ)を起こすことがあります。その他、自律神経にも障害が起こり、発汗異常、立ちくらみ、便通異常、膀胱(ぼうこう)障害、勃起障害などの症状があらわれます。神経障害の予防には血糖コントロールに加え、禁煙やアルコールを控え目にすることも必要です。
ヒトの眼(め)の構造はよくカメラにたとえられます。レンズの役目を果たすのが水晶体で、フィルムの役目を果たすのが網膜です。慢性的な高血糖によって網膜が障害を受けると、小さな出血や白斑と呼ばれる病変ができ、進行すると比較的大きな出血も出現します。糖尿病網膜症は失明の原因の第2位であり、年間約3000人が失明しています。自覚症状に乏しい場合が多いため、定期的な眼科受診(表1)と糖尿病コントロールを良好に保つことが大切です。
腎臓は、血液をろ過して体に不要な老廃物を尿として排泄(せつ)します。糖尿病腎症になると、ろ過の役割をしている糸球体の毛細血管が障害されて、老廃物を排泄する機能が失われてしまい、最終的には透析導入を要することになります。2013年にわが国で新規に透析導入された患者のうち、約44%が糖尿病腎症です。この合併症も自覚症状がないまま進行していきます。早期発見には、定期的に蛋白(たんぱく)尿の有無や、腎臓の機能を検査する必要があります。
動脈硬化は動脈の内側にさまざまな物質が沈着して厚く、硬くなり、血管の隆起(プラーク)ができる状態で、糖尿病をはじめとして脂質異常症、高血圧、喫煙などによって起こるとされています。動脈硬化が進むと、血流が途絶したり、血管にこびりついているプラークがはがれて血管が詰まり、重要な臓器に障害を起こします。脳梗塞、狭心症・心筋梗塞や末梢動脈性疾患があります。
足の太い血管に動脈硬化が起こり、血液の循環が悪くなって歩行が困難になります。悪化すると、痛みで歩けなくなり、やがて皮膚潰瘍、壊疽を起こして、場合によっては足を切断することもあります。糖尿病患者さんでは、10~15%と高い割合で合併します。
その他に、血糖コントロールが悪いと歯周病が悪化するといわれています。さらに、歯周病は心筋梗塞や呼吸器疾患、低体重児出産などを引き起こす誘因となる可能性も指摘されています。歯周病は、特に高齢の人や、たばこを吸う人、肥満の人、抵抗力が低下している人に起こりやすくなります。
また、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症の起きるリスクは、糖尿病でない高齢の人の2~4倍といわれています。認知症になると糖尿病の自己管理が難しくなり、療養の上でも大きな問題となります。
これらの慢性合併症が進むと日常生活に支障が生じ、寿命も損なわれることになります。予防するためには、血糖値とともに血圧やコレステロールなどを健康な人と同じレベルに管理しておく必要があります。
山陽新聞 岡山医療メディカ掲載(2015/6/1)
糖尿病では血糖値の高い状態が続きます。治療の三本柱「食事療法・運動療法・薬物療法」のうち、食事療法はすべての人が対象となる大切なものです。それは血糖値が食事の量や種類、食べ方に左右されるからです。血糖値をよい状態に保ち、合併症を予防するための食事について考えてみましょう。
1日の必要エネルギーは標準体重と身体活動量から求めることができます(図1)。
“バランスのよい食事”を簡単に調えるには、1食の中に三つのものがそろうように考えてみるとよいでしょう(図2)。
食品の目安量は、標準体重60キロ・必要エネルギー1600キロカロリーの方の場合、「ご飯200グラム、肉80グラム・魚80グラム・卵1個・豆腐100グラムからひとつ、野菜・海草・キノコを100グラム以上」です。
食事は1日3回、適当な間隔をあけて毎食同じくらいの量をとります。当院で糖尿病患者さんの食事の時間を調査したところ、「欠食がある・食事の間隔のバラツキがある・遅い時間に食べる」といった方に、血糖コントロールが思わしくない傾向がみられました。
血糖値を速やかに上げるのは糖質(食物繊維以外の炭水化物)です。糖質の摂取量を抑えて血糖値や体重を管理しようとする考え方がありますが、極端に糖質を制限すると栄養素のバランスが崩れ、血糖値が乱れやすくなり、長期的には腎症や動脈硬化の進行のリスクが高まると言われています。糖質(ご飯・麺・パン・イモ類など)も適度にとり、他の食品と組み合わせていくのがよいでしょう。
積極的にとりたいのは食物繊維です。ほとんどエネルギーにならない、食後の急激な血糖上昇を抑える、コレステロールの排泄(せつ)を促す、便通によいなどメリットがたくさんあります。
野菜、海草、キノコや豆に多く含まれており、食事の最初にとると食べ過ぎの防止になります。主食に麦や雑穀を混ぜると手軽にとることができます。
菓子や果物は血糖値の上昇や肥満を招き、糖尿病には“要注意食品”です。習慣的にたくさんとらないことが大切です。特に菓子はできるだけ間食はせず、「まんじゅう半分・日に一回」など自分でルールをつくって上手につきあっていきたいものです。
血圧が高い方の食塩の目安は1日6グラム未満です。調味料のほか漬物、汁物、麺類、加工品、また市販の総菜や外食の利用は過剰摂取のもととなります。これらを重ねてとらないようにし、香辛料や酸味を使って料理の味付けにメリハリをつけるとよいでしょう。
また、動脈硬化の予防のために、質のよい油を上手にとりたいですね。卵黄や魚卵、内臓や脂の多い肉を控え、今話題のα―リノレン酸を含むエゴマ油などを使ってみるのも手です。熱に弱く酸化されやすいので、加熱しない料理に使います。また、フッ素樹脂加工のフライパンを使ったり、網焼き、ゆでる、蒸すといった調理方法に変えると油の量を減らすことができます。
正しい食事は良好な血糖コントロールやしっかりとした体づくりに不可欠。毎日続けるためには、「おいしく楽しく食べること」、「簡単にできて無駄がないこと」が大切ですね。そのためのヒント、ぜひお近くの管理栄養士にお尋ねください。
山陽新聞 岡山医療メディカ掲載(2015/7/6)
糖尿病は膵(すい)臓から分泌されるインスリンの作用不足で起こってきます。インスリンの作用不足が強くなり、食事・運動療法を行っても血糖のコントロールが得られない場合に、薬物療法が必要になります。
糖尿病治療薬には内服薬と注射剤があります。内服薬には働きの違う経口血糖降下薬が7種類、注射剤にはインスリン製剤とGLP―1受容体作動薬の2種類があります(表1)。それぞれの薬物の特徴について示します。
経口血糖降下薬は働きの違いによってインスリン分泌を高める薬剤(インスリン分泌促進薬)、インスリンの働きを改善する薬剤(インスリン抵抗性改善薬)、糖の吸収・排泄(せつ)を調節する薬剤(糖吸収・排泄調節薬)に分類されます。糖尿病患者の病態に適した薬剤が選択されます。具体的には、やせ型の2型糖尿病にはインスリン分泌促進薬が使われ、肥満傾向にある2型糖尿病にはインスリン抵抗性改善薬や糖吸収・排泄調節薬が使われます。
(1)インスリン分泌促進薬
スルホニル尿素薬(SU薬)、速効型インスリン分泌促進薬、DPP―4阻害薬があります。
SU薬は膵臓からのインスリン分泌を促進し、1日1~2回の服薬で十分な血糖改善効果が得られます。効きすぎると低血糖を起こすことがあり、注意が必要です。また、食事療法が遵守できていないと肥満を助長することがあります。速効型インスリン分泌促進薬はSU薬と同じ機序で効果を発揮しますが、SU薬ほど作用持続時間は長くありません。毎食直前の服薬で食後の高血糖を改善する効果に優れています。
DPP―4阻害薬は現在国内の糖尿病患者の6割以上に使われている薬です。腸管から分泌されるインクレチンというホルモンの濃度を高める薬です。低血糖を起こしにくく、体重増加も来しにくいという特徴があります。
(2)インスリン抵抗性改善薬
ビグアナイド薬とチアゾリジン薬があります。インスリンの働きを改善して血糖値が高くなるのを防ぎます。これらの薬だけで治療する場合、低血糖を起こすことはほとんどありません。
(3)糖吸収・排泄調節薬
α―グルコシダーゼ阻害薬は食事中の炭水化物を分解する酵素の働きを抑えて、消化管からの糖の吸収をゆるやかにして、食後の血糖上昇を抑えます。
一方、SGLT2阻害薬は腎臓からの尿糖の排泄を増やして血糖値を改善する薬です。糖尿病患者が服薬すると、1日に約300キロカロリーに相当するブドウ糖が排泄されます。体重減少効果があり、肥満を持った糖尿病患者に有用です。
(1)インスリン製剤
食事・運動で血糖コントロールが得られない1型糖尿病や、内服薬で血糖コントロールが難しい2型糖尿病患者にインスリン療法が行われます。また、最近は内服薬で治療する前に一時的に使用することがあります。インスリンには作用持続時間の違いによって主に食後の血糖を抑える製剤、空腹時血糖を改善する製剤、さらに両者をあらかじめミックスした製剤があります。最近、インスリン注射システム(図1)は著しく進歩しており、注射操作も簡素化され、注射による痛みも少なくなっています。
DPP―4阻害薬とともに、インクレチン関連薬の一つです。直接、膵臓に働いてインスリンの分泌を促進します。
食欲を抑え、体重減少効果が期待できます。
糖尿病に用いられる薬の種類が増え、働きの違う薬を併用することで、良好な血糖コントロールが得られやすくなりました。できる限り早い時期から薬を使って良好な血糖値を維持することが大切です。
山陽新聞 岡山医療メディカ掲載(2015/7/20)
糖尿病治療の最終的な目標は、健康な人と変わらない生活の質と寿命を確保することであります。それを達成するには、血管障害など糖尿病の合併症を起こさないことです。糖尿病が発症して、より早い時期から積極的な治療を行う必要があります。
治療の基本は食事・運動療法であり、生活習慣を是正してもよい血糖コントロールが得られない場合は、薬物療法を行います。さらに、合併症を予防するには血糖コントロールに加えて、血圧、血清脂質、体重を健康な人のレベルにできる限り近づける必要があります。
血糖値は健康な人で食前70-100mg/dl、食後60~90分後には100-140mg/dlに上昇します。糖尿病の治療による血糖値の判定は食事時間との関係を考慮する必要があります。また、血糖コントロールの状態を反映する指標として、ヘモグロビンA1c(HbA1c)やグリコアルブミンがあります。
HbA1cは赤血球の中に含まれるヘモグロビンとブドウ糖が結合した割合を示しています。過去1~2カ月間の平均の血糖値を反映します。血糖値が高いほどHbA1cは高くなります。健常者の基準値は4・6-6・2%であります。糖尿病の治療における血糖コントロールの目標を表1に示します。
合併症を予防するための目標値はHbA1c7・0%未満であり、多くの糖尿病患者における目標値となります。これに対応する空腹時血糖値は130mg/dl、食後2時間血糖値は180mg/dlが目安になります。
また、糖尿病を発症して期間の短い患者や若年者で、適切な食事・運動療法で治療が可能な場合や低血糖などの副作用なく薬物療法ができる場合には、血糖正常化を目指す6・0%未満が目標となります。一方、高齢者などで低血糖などの副作用で治療強化が難しい場合には8・0%未満と比較的緩やかな目標とします。
このように、血糖コントロール目標は年齢、糖尿病の罹(り)病期間、低血糖の危険性、合併症の状態、治療を支える家族や介護者のサポート体制などを考慮して個別に設定します。
グリコアルブミンは血液の中のタンパク質のアルブミンとブドウ糖の結合した割合を表しています。過去2週間の血糖値平均値を反映しています。基準値は11-16%であり、HbA1cの約3倍の値を示します。
高血圧は動脈硬化症を進展し、全身の臓器に障害を起こしてきます。特に高血圧と脳卒中には関連性があると考えられています。糖尿病がある場合の血圧の目標値は収縮期血圧(高い方の血圧)を130mmHg未満に、拡張期血圧(低い方の血圧)を80mmHg未満に―です。収縮期血圧が140mmHg以上、拡張期血圧が90mmHg以上ある場合にはただちに降圧薬による治療が必要です(表2)。
血清脂質も冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)などの動脈硬化症と関連があります。糖尿病がある場合、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)の目標値は120mg/dl未満に、さらに冠動脈疾患の既往があれば目標値は100mg/dl未満と厳しくなります。早朝空腹時の中性脂肪(トリグリセライド)150mg/dl未満、HDL-コレステロール(善玉コレステロール)の目標値は40mg/dl以上です(表3)。
体重が増えることにより、インスリン抵抗性が高まることで血糖コントロールは悪くなりますし、血圧や血清脂質のコントロールも難しくなり、動脈硬化症を進展させます。特に肥満のある方では、標準体重である肥満指数(BMI)22を目指した生活改善が必要です。
血糖値やHbA1cを含め、血圧、血清脂質、体重などをコントロール目標値に維持することで、糖尿病合併症の予防につながり、最終的な糖尿病治療目標である健康な人と変わらない生活の質と寿命を確保することができます。
山陽新聞 岡山医療メディカ掲載(2015/8/3)
関節リウマチは手や足、ひざやひじなどの関節が痛んだり、腫れたりする病気です。日本では約70万人が罹(り)患されており、好発年齢は30歳ごろから、50歳の閉経前後の女性に多い病気です。初期症状としては、関節が痛い、関節の腫れ、朝起きた時の手足のこわばりなどがあります。 関節リウマチは滑膜(関節を包んでいる膜)に炎症が起こり、滑膜が増殖し関節軟骨や骨を溶かして破壊していく病気です(図1)。その原因はまだはっきりわかっていませんが、遺伝的要因のほか、喫煙や歯周病などの環境的要因があるといわれ、自分の身体を自分が攻撃していくという、自己免疫疾患の一つです(図2)。
関節の腫れは、初期では紡錘(すい)状の腫れから始まることが多く、適切な治療がなされていないと疼(とう)痛が続くばかりか、手足が変形し、日常生活に支障をきたします。
通常、体の中に細菌やウイルスなどの異物が入ると、抗原提示細胞という細胞が、T細胞にその情報を知らせます。T細胞は炎症性サイトカインIL-6やYMGαというものを産生して、B細胞やマクロファージという細胞に命令を出します。このB細胞やマクロファージはその命令によりさらに炎症性サイトカインを産生していき、細菌などの異物をやっつけます(図3)。
関節リウマチでは、抗原提示細胞がT細胞に誤った情報を伝えます。T細胞は細菌が体の中に入った時と同じようにB細胞やマクロファージに命令を出して炎症性サイトカインを産生し、自分の体(関節)を異物として認識し、自分の関節を攻撃して壊してしまいます(図4)。
関節の痛みをきたす病気は痛風や変形性関節症などたくさんあります。関節リウマチの診断は、視診(関節の腫れを目で見る)や触診(関節の熱さや痛みを手で診察する)のほか、レントゲンや血液検査などで確定診断を行います。そのほかMRIや関節超音波などを用いて、診断された関節リウマチの勢い(病勢)や治療効果の判定も行います。
約10年前までは、関節リウマチの患者の平均寿命は一般の人の平均寿命と比べて、約10年短いと言われていました。しかし、2003年以降、関節リウマチ治療薬として生物学的製剤という新薬が次々に登場し、関節破壊の進行を劇的に抑えることができるようになり、現在では平均寿命や健康寿命の差も着実に少なくなってきています。発病早期より専門医による適切な治療がなされれば、痛みや関節変形のない日常生活が行えるようになります。
関節リウマチは主に関節が侵される疾患です。内科的疾患であると同時に、関節変形が強くなれば手術も必要な場合があり、整形外科的疾患であるとも言えます。日常生活動作の支障が大きくなれば社会的サポートも必要になります。内科医・整形外科医のほか、看護師やリハビリテーションスタッフ、医療ソーシャルワーカーといった多職種によるチーム連携によって、QOL(生活の質)向上が得られます。
山陽新聞 岡山医療メディカ掲載(2015/10/5)
前回は関節リウマチという病気のしくみをお話しいたしました。今回は、現在の関節リウマチの診断と治療の流れについてお話しいたします。関節リウマチは閉経期の女性に発症しやすい病気で、一つの関節だけでなく複数の関節に対称的に腫れや痛みが出るのが特徴(図1)で、朝のこわばりや全身倦怠(けんたい)感や微熱などもよく見られる症状です。適切な治療をほどこさなければ関節破壊を来し、関節の変形にいたることもあります。関節の腫れや痛みを起こす病気は関節リウマチ以外にも痛風や偽痛風、変形性関節症などがあります。
関節リウマチと診断するには、手や足、肩や肘、膝や股関節や足首などの腫れや痛み、関節の変形などの症状(図2初期、図3進行期)のほか、レントゲン、血液検査による炎症反応やリウマチ因子の結果(図4)から、他の関節の病気を考慮して総合的に診断します。レントゲンで骨のびらん(骨が溶けていく様子)や関節破壊像(図5)があれば明らかに関節リウマチと診断できますが、病気の初期で診断がつきにくい場合には、リウマチ学会の分類基準を用いたり、近年では関節超音波検査や関節MRIを用いて早期関節リウマチ診断への重要な参考所見にします。
さらに、患者の病気の状態や背景の把握のために、クラス分類(日常生活機能)とステージ分類(関節破壊の進行度)、病歴(病気の期間)、疾患活動性(病気の勢い)の判定を行います。このうち疾患活動性は、治療方針を決めるうえで重要であり、DAS-28(ダス28と読みます)という指標を用いて薬剤選択や効果判定に使用します。DAS-28は血液検査のうち炎症反応であるCRPや血沈のほか、患者と医師の評価点数で数値化されます。これらのデータや画像をもとに患者に病気と治療の十分な情報提供を行い、患者同意のもとに治療を開始します。
関節リウマチの治療は薬物治療が主体となります。前回お話ししましたように、関節リウマチは誤った免疫の情報(免疫異常)が原因となって関節に炎症を起こします。ですから治療は炎症を抑えて免疫異常を是正する抗リウマチ薬が主体となります(図6)。
抗リウマチ薬は従来型抗リウマチ薬と生物学的製剤に分けられ、このうち生物学的製剤は2003年に1剤目が登場し、現在は7種類の生物学的製剤があります。これら生物学的製剤の登場によって、世界的に治療の流れが大きく変わりました。
早期治療と目標達成治療という概念が確立され、その結果、寛解(治癒と同じ状態のこと)が現実化され、関節破壊阻止が可能になり、生命予後(寿命)の改善がもたらされました。昨年(14年)、日本リウマチ学会からも治療指針が提唱されました。要約すると、薬物治療の基本は「メトトレキサート」という抗リウマチ薬で治療を開始し、この薬剤を増量するか他の抗リウマチ薬を併用していきます。それでも効果が得られない場合は生物学的製剤を開始し、3~6か月ごとに治療効果を判定した上で、2剤目、3剤目の生物学的製剤に変更し関節破壊の抑制を目指します(図7)。
このように現在の治療目標は「臨床症状の改善のみならず、関節破壊の抑制を介して長期予後の改善、特に身体機能障害の防止と生命予後の改善を目指す」と明確に提唱されました。わかりやすく言うと、「しっかり炎症を抑え、きちっと関節の変形を防止し、痛みのない日常生活を過ごし、健康寿命をのばしていくこと」が実現可能な治療の目標となっています。
さて、治療の流れと目標は明確になっていますが、実際の診療では患者ごとに治療反応性が異なり、社会的背景も考慮しながら個々の患者のニーズにあわせた治療目標を設定していきます。そのほかにも白血球除去療法(LCAP)という治療法がありますが、第4回と第5回で詳しくお話しいたします。患者においては、医師に言われるがままではなく、ご自分の病気を理解し、現在の治療がどの位置にあるのかを認識していただくことも関節リウマチ治療には重要な要素といえます。次回は関節リウマチの手術療法とリハビリテーションです。
山陽新聞 岡山医療メディカ掲載(2015/10/19)
今回は関節リウマチの手術療法とリハビリテーション(以下リハビリ)についてお話しします。
手術療法は、病巣である滑膜を取り除く滑膜切除術と、関節再建を行う関節形成術の二つに大きく分けられます。では、どういったときに手術を行うのでしょうか。
変形した関節や機能障害を生じた関節は薬物のみでは治りません。薬物治療で寛解(治癒と同じ状態のこと)に至っていても、関節機能障害のためにADL(日常生活動作)低下を生じている方も少なくありません。
こういった場合、病巣を外科的に取り除いて、できる限りの機能回復を目指します。たとえば「尺側偏位」といって指全体が小指側に流れるような変形を来した場合、特に小さな物がつかみにくくなり、指と指で物をつまむピンチという動作が困難になって、握り込むような形でなければ物が持てなくなります。特に女性では、包丁が持てない(自分で手を切ってしまった)、お化粧ができない、アクセサリーがつけられない等から、生活行動範囲が狭くなります。
この場合、滑膜切除術で病巣滑膜を切除したり、関節の変形矯正のための関節形成術をすると、機能回復ばかりでなく美容上も改善し「外出することが楽しみになった」と喜ばれる方もおられます(図1)。
人工関節をはじめ手術機器・術式も薬物療法と同様に進歩し、術後のリハビリも手術翌日から始まり、手術成績もめざましく向上しています。当センターでは岡山大学の西田圭一郎准教授にも執刀していただき、内科薬物治療と整形外科手術療法の連携によってさらなる患者満足度向上を目指しています。
薬物療法、手術療法の進歩に伴い、以前と比べ積極的なリハビリが行えるようになってきました。しかし血液データが良好な場合でも、腫れや熱感の強い関節に対してむやみに動かすことは好ましくありません。“関節を保護する”という意識づけは常に大切なものです。しかし機能維持に運動は不可欠であり、関節変形を予防するための装具(図2)や自助具(図3)を生活の中でうまく組み合わせて、“適切”に動かすことも大切です。
リウマチ患者の平均寿命は確実に伸びています。言うまでもありませんが、健康寿命は自分自身で伸ばしていくものであり、加齢とともに低下していく身体機能に対してリハビリは有効です。薬物療法・手術療法とともにリハビリは一生行うことであり、患者さん本人の前向きな気持ちが最も大切です。
さらに現在は通所・訪問リハビリ等もあり、医療から介護へ切れ目なくリハビリを受けることが可能となっています。
手術療法に関して、「どういった手術があるの?」「自分は手術をしたら良くなるのだろうか?」「リハビリに関して今の自分に適切な運動は?」「どんな装具や自助具があるの?」などの不安や疑問に思うことがあれば、医師だけでなく看護師やリハビリスタッフにも相談してください。関節リウマチ診療に精通したリハビリ専門職(理学療法士・作業療法士)が医師と密な連携を取ることにより、個々に応じたリハビリを行うことができます。適切な手術療法やご自分に合ったリハビリでQOL(生活の質)向上を目指しましょう。
山陽新聞 岡山医療メディカ掲載(2015/11/2)
今回は関節リウマチ診療における看護とケアについて、私たち看護師の目線からお話をさせていただきます。看護師も医師と同様、業務は細分化され、専門領域があるのをご存知でしょうか。たとえば、糖尿病認定看護師やがん領域の認定看護師、透析看護師と同様に、関節リウマチの領域でも患者により良い治療環境を提供することを目的に、日本リウマチ財団が認定する「登録リウマチケア看護師」という制度があります。
当センターでは現在6名のリウマチケア看護師を中心とし、患者の診療にあたっています。医師に「リウマチです、治療を始めましょう」と告げられると気落ちされる方が多いと思いますが、現在では早期発見・早期治療によって寛解(治癒と同じ状態)に達することができます。しかし治療薬はたくさんの種類があり、その副作用も多岐にわたるため、私たち看護師は診察終了時に日常生活での注意点を説明し、何か異変があれば速やかな再診を勧めています。
関節リウマチという病気が高血圧や糖尿病などと違う点は、痛みや苦痛を感じるばかりでなく、関節が変形した場合は日常生活や家事・仕事に支障をきたすことがあるということです。先日、患者の実態調査の結果をまとめた2015年版「リウマチ白書」が刊行されました。それによると治療・生活・社会保障などについて多くの不安を抱えておられます(図1)。
診察後の点滴や採血時に、「さっき先生に聞き忘れたのですが」、「実際の治療費はどれくらいですか」など、聞かれることがあります。医師の説明が十分理解できなかった時や自分の気持ちが医師に伝えられなかった時には、私たち「登録リウマチケア看護師」が専門的な補足説明のほか、お困りのことなど十分うかがうように心がけております。
自己注射
関節リウマチ治療のパラダイムシフト(大変革)をもたらした生物学的製剤(BIO)は、点滴製剤か皮下注射製剤のどちらかですが、ライフスタイルに合わせてどちらかの治療方法を選べます。皮下注射製剤は自己注射も可能です。自己注射の場合、「怖い」「無理無理」などと言われますが、私たち登録リウマチケア看護師と一緒に自己注射の練習を行うと、「思ったより簡単だった」という方もおられます。自己注射の利点の一つとして長期処方が可能になります。
LCAP療法(白血球除去療法)
BIOは優れた治療薬ですが、効果が不十分な時、合併症や副作用で使用できない場合にLCAP療法を選択することがあります。LCAP療法は白血球の一部を体外循環で吸着し取り除いて炎症を抑えるという方法です。1回の治療時間に2時間弱かかりますが、患者に不安を与えることのないように、看護師と臨床工学技士が最初から最後まで付き添い、十分な管理のもとで行います(図2)。
フットケアの実践
手や足の関節に変形をきたした場合は、清潔が保てなかったり、靴の“あたり”ができるケースも少なくありません。何らかの足のトラブルを抱えているにもかかわらず、痛みに耐えて生活されている方が多くおられるのが現状です。当センターでは診察時に足を診させていただき、鶏眼(うおのめ)があれば、私たちが医師の指示のもと専門的処置(図3)のほか、自宅でのケアの指導、自助具の紹介、手術療法を含めた整形外科医との連携も行います。
「リウマチだから仕方ない」とか「どうせ治らない病気だから…」と思われている方も多いと思います。私たち「登録リウマチケア看護師」は、適切な治療のサポートとして患者の声に耳を傾けるだけでなく、専門的なリウマチケアの実践を行うことで、患者が「痛みのない満足できる人生」を過ごしていただくことを望んでおります。
山陽新聞 岡山医療メディカ掲載(2015/11/16)
今回は、今までお話してきた関節リウマチ診療の流れをまとめるとともに、メディカルスタッフによるチーム医療の重要性と今後の展望についてお話いたします。
この約10年で登場した多くの生物学的製剤(BIO)や抗リウマチ薬(csDMARD)によって見えてきたことを整理してみましょう。「治療目標の確立」「新しい寛解基準」「治療指針の確立」「早期治療の重要性」が提唱され、その結果、「関節破壊の抑制」「寛解の現実化」「QOL(生活の質)の向上」「健康寿命の改善」「手術による劇的な機能回復」が現実化しました。
他方、関節リウマチは骨粗鬆(そしょう)症・呼吸器障害・糖尿病・高血圧・胃腸病といったさまざまな合併症が多く(図1)、これらは患者の健康寿命に関わるため、関節痛の治療だけでなく「合併症の管理」、すなわち「全身を診る」ことの重要性も浮き彫りになりました。当センターのリウマチ内科医はリウマチ専門医であるとともに全員が総合内科専門医の資格を有しています。合併症も見逃さず治療を行う「全身を診る」ことを診察の基本としています。
さて、症例によってはどのBIOも効かなかったり、合併症や副作用で薬物治療の目標達成がうまくできない場合もあります。この場合、当センターでは白血球除去療法(LCAP)を選択肢の一つにしています。この方法は、関節リウマチの原因となる異常な白血球の一部を除去して炎症を抑える方法で、副作用も少ない治療法です。病勢の強い方が適応で、われわれの施設では一定の有効性を得ています(図2)。
「私はリウマチだから出産なんて無理だわ」「育児が大変そうだから子どもはあきらめたの」などといわれる患者さんは少なくありません。しかし、治療薬を上手に使いながら妊娠・出産をされた方は多くおられます。妊娠前後の薬物治療の原則は「有益性投与」です。
分かりやすくいうと「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合に投与」、つまり最も大切なことは、まず妊娠前までにBIOなどの治療で病気の勢いをしっかり抑えることです。その際使ってはいけない薬もありますので、患者さん方にも正しい知識を持っていただくことも大切です。妊娠・出産を希望される方は授乳期間も含めて必ず専門医に相談し、適切な治療を受けてください。笑顔あふれるご家庭を築かれることを望みます。
関節リウマチはその治療が長期にわたるため、患者さんにとっては心理的負担も大きく、さらに薬価の高いBIO導入となれば経済的にも大きな負担となります。これらのさまざまな問題を医師だけで解決することは難しく、医師以外のメディカルスタッフの協力が必要となります。
われわれスタッフはこれらの背景を踏まえた上で個々の症例の多様なニーズに対応するため、看護師・リハビリテーション・医療ソーシャルワーカーなど多職種連携(チーム医療)によるトータルマネージメントを行っています。例えば薬物治療によって臨床的寛解(腫れや痛みが消失した状態)が得られたとしても、変形によって日常生活動作が制限された場合は、第3回でお話したように当センターでは整形外科篠田医師のほか、岡山大学の西田圭一郎准教授と連携(図3)し、関節温存術や人工関節術で関節機能回復とQOL向上を目指します。
身体機能の回復には関節リウマチに精通したスタッフによるリハビリテーションは不可欠であり、看護師の介在も患者と医師のコミュニケーションには必須といえます。医療ソーシャルワーカーは複雑な社会保障や支援制度の情報提供を行うことで「保健」「医療」「福祉」の各サービスの調整や活用のほか、病診連携・病病連携や地域社会との調整を通じ、患者の心理的・経済的・社会的問題の解決を工夫していきます。
関節リウマチに対する新規薬剤や手術療法の進歩は目を見張るものがあり、先端医療・予防医療・再生医療も近未来には導入されるでしょう。一方で、医療技術の進歩、数値化や可視化されない患者満足度の向上も非常に重要であると考えます。
医療スタッフが常に心がけるべきことは、患者さんの「つらいこと」「困っていること」「悩んでいること」を傾聴し、目の前の機能障害に目を向けて一つずつ解決しながら、心から満足していただける医療サービスを提供することです。患者満足度向上は、多職種によるメディカルスタッフで構成されるチーム医療によって達成されるものと思っています。患者さんの「痛みの無い、機能障害の無い、充実した生活」を切に望みます。
次回はソーシャルワーカーより、リウマチ治療に関わる社会保障制度や医療・福祉制度についてお話させていただきます。
山陽新聞 岡山医療メディカ掲載(2015/12/7)
今回、当院のリウマチ患者からの相談が多い「医療費助成制度」についてお話させていただきます。医療機関の中での福祉に関わる専門職として医療ソーシャルワーカー(以下MSW)という職種があります。私たちMSWは保健・医療・福祉の分野において、社会福祉の立場から患者やご家族の疾病に伴う不安のほか、医療費や就業などの問題解決へ向けて、サービス調整や活用支援を行います。特に医療費助成制度は制度内容が複雑で分かりにくく、ほとんどが申請主義といった理由から、円滑に制度活用へ至っていない方々がおられます。
これから少し複雑な制度の話をしますが、制度の内容そのものより、それらの制度をうまく活用し、満足度の高い医療サービスを受けていただけるよう、私たちMSWを活用していただけたらと思います。
高額療養費制度とは、1カ月の自己負担金が一定以上かかった場合、それを超えた額が払い戻される制度です。(図1・2)医療費が高額になると分かっている場合は、事前に「標準負担額・限度額適用認定証」を医療機関の窓口へ提示する方法が便利です。
また、高額療養費として払い戻しを受けた月数が1年間(直近12カ月間)で3カ月以上あった場合は、4カ月目から自己負担限度額がさらに引き下げられる「多数該当」という制度があります。多数該当は、同一保険者で適用されます。ただし、国民健康保険から協会けんぽに加入した場合などの保険者の変更時や退職して被保険者から被扶養者への変更時などの場合は、多数該当の月数に通算されません。
さらに医療費の負担を軽減する仕組み「世帯合算」という制度があります。お1人の1回分の窓口負担では高額療養費の支給対象とならなくても、複数の受診や同じ世帯にいる他の方(同じ医療保険に加入している方に限る)の受診について、窓口でそれぞれお支払いになった自己負担額を一カ月単位で合算することができます。その合算額が一定額を超えた時は、超えた分を高額療養費として支給されます(図3)。それは70歳で区切られており、
70歳以上の方 | 自己負担額をすべて合算できます。 |
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70歳未満の方 | 受診者別に次の基準により、それぞれ算出された自己負担額(月額)が21,000円以上のものを合算することができます。 |
次に合算対象について2つの要点を説明します。
要点1
医療機関ごとに計算します。同じ医療機関であっても(1)医科入院(2)医科外来(3)歯科入院(4)歯科外来―を分けて計算します。
要点2
医療機関から交付された処方せんにより調剤薬局で調剤を受けた場合は、薬局で支払った自己負担額を処方せんを交付した医療機関に含めて計算します。
心身に重度の障害がある方を対象に医療費の自己負担額を軽減する制度です。対象となる方が未成年者などの場合には保護者の方などに医療費が助成されます。この制度は都道府県や市町村が実施しており、助成の対象になる障害の程度として(1)身体障害者手帳1級・2級・3級の一部(2)療育手帳A(各自治体で名称や判断基準が異なります)(3)後期高齢者医療制度の障害認定を受けている方などが対象となる場合があります。市町村によっては、精神障害者保健福祉手帳1級所持者が対象に含まれる場合もあります。また、これらの受給には所得の制限の規定があります。
このように、社会保障制度や医療福祉制度はその基となる法律も多岐にわたり手続きも複雑です。前回までの記事で述べましたように、関節リウマチ診療には多職種によるチーム協働が重要です。そのうち、私たちMSWは、一人ひとりの患者の「困っていること」「悩んでいること」「不安なこと」に向き合い、医師、看護師とともに最も適した制度への導きを通じて、患者本人だけでなく、ご家族を含めた皆さまのQOL(生活の質)向上を図ります。
その上で、私たちMSWは、当リウマチセンターの枠を超えて、他の病院や施設との地域連携も行っていきます。
医療・福祉・介護などに関することでお困りの方はどなたでも遠慮なくご相談下さい。皆さま方の、喜びや希望に満ちあふれる生活を望んでおります。
山陽新聞 岡山医療メディカ掲載(2015/12/21)
シリーズでお伝えしてきました関節リウマチ治療の特集の最終回です。これまで、関節リウマチの病気メカニズム、診断と治療(薬物療法・手術療法)、リハビリテーション、看護ケア、社会保障制度などについて掲載させていただきました。今回は、治療を受ける患者さんの立場に立って考えてみたいと思います。
私が医師になって30年近くになりますが、関節リウマチの治療は飛躍的に進歩しました。以前では想像もしなかったほど、関節の腫れや痛みを封じ込め、関節の破壊を抑えることも可能となってきました。特に複数の生物学的製剤の登場により、一部の患者さんでは、破壊された骨が修復される現象も認められるなど、最近10年余りは関節リウマチ治療の革命期とも称されています。
リウマチは早期に診断し早期から治療を開始することが標準となり、進行している患者さんでも膝や股関節といった大きな関節は日常の生活に大きく影響するので炎症を抑えることが主眼に置かれます。当院も一人一人の患者さんの治療成績を基にした臨床データベースを活用し、各種治療法の評価を行うなど、科学的根拠に基づいた診療を実践しています。
課題は、生物学的製剤が非常に高額で、患者さんに負担が重くのしかかっていることです。先発医薬品よりも安いバイオシミラーと呼ばれる後発医薬品も徐々に増えていますが、特に低所得者の方などへの一刻も早い対策が望まれます。
一方で、残念ながらリウマチの患者さんの全てに効果のある夢の薬はまだ存在しません。内服薬の中心的存在であるメトトレキサートや生物学的製剤は若干の免疫力の低下が懸念されます。やむを得ず使用するステロイドも骨が脆(もろ)くなったり、免疫力が落ちたりします。一般的に治療効果の高い薬ほど副作用も多くなる傾向にあります。
最近、患者さんも積極的に治療に参加しましょうということが唱えられています。自分の病気の特徴や治療薬について知ることは、とても有益です。身近な家族の方に知ってもらうことも治療に役立ちます。治療方法について、主治医に任せるだけでなく、患者さん自身も一緒に考え納得して治療に参加し、主治医とパートナーシップを築くと治療効果がより一層向上します。
リウマチの関節破壊は、炎症の程度と持続期間によって決まります。症状の悪い期間をいかに短くするかが治療のポイントです。手洗いやうがいを心がけて感染症を予防し、インフルエンザや肺炎の予防接種で重症化を防ぎ、異変があればすぐに主治医に相談することで副作用の多くは対処可能です。ステロイドで骨が脆くなるのを抑える薬もあります。1回きりの大切な人生を有意義に過ごしていただくことが私たちの願いです。
なるべく普通の暮らしを心がけましょう。食事は、バランスよく栄養を摂(と)り、骨が脆くならないようにカルシウムやビタミンDをしっかりと摂る工夫を考えます。牛乳・ヨーグルト・チーズなどの乳製品はカルシウムの吸収率が高く、効果的です。納豆に多く含まれるビタミンKも骨を強くする作用があります。サプリメントなどで葉酸を摂りすぎると治療薬のメトトレキサートの効果が弱くなるので注意してください。入浴は、ぬるま湯にゆっくりつかってリラックスすることもよいでしょう。炎症を起こしている関節に熱を与えることは控えてください。炎症が強い時は安静が必要ですが、適度な運動を生活に取り入れることは大切です。
人に頼らず、なるべく自分のことは自分でするという姿勢をもちましょう。福祉制度なども積極的に活用すべきですが、あくまで自分の人生の支えとなる補助的なものです。もし、ハンディキャップがあっても気持ちの持ち方次第で社会参加の多くは可能となります。たとえ障害があっても自分で身の回りの生活ができる施設や福祉用具を私も開発してきました。いろいろと工夫を凝らすことも試みる価値があります。
リウマチではない私がリウマチの患者さんの心がけについて述べることは、甚だ失礼なことと存じますが、長年リウマチ診療を続けてきた経験から考えてみたいと思います。リウマチに罹(かか)ってしまったことはとてもつらい現実ですが、たった一度の人生をどう過ごすかを前向きに考えていくことはとても大切です。
リウマチのように慢性的に痛みを伴う病気に罹ると、誰もが憂鬱(ゆううつ)な気分に陥りがちです。しかし、滅入ってばかりいては扉を開けません。心の底から笑っている時や何かに夢中になっている時には、多幸感を促す脳内ホルモンの影響もあり、不思議と痛みを感じないものです。調子のよい時には、積極的にお出かけをしたり、趣味に興じたり楽しく過ごしてみてはいかがでしょうか。人や社会に役立つ活動も自らを幸せにしてくれます。
リウマチの患者さんの友の会や病院のリウマチの集いなどは、リウマチを抱えたご本人やご家族との出会いの場となります。リウマチになったからこその出会いです。心から共感することで、少しでも痛みがやわらぐこともあるでしょう。私も患者さんからたくさんのことを教えていただきましたし、何よりも患者さんの気持ちを理解することが診療の第一歩となります。日々、自分らしく活(い)き活(い)きとしたリウマチライフのために、あせらず、ゆっくりと、そして一歩一歩着実に、歩んでいきましょう。
山陽新聞 岡山医療メディカ掲載(2016/2/1)